母ちゃんが中学生の時のこと。
下校時の空模様がちょっと微妙だったんだ。
でも、雨は降ってないからなんとかなるって母ちゃんは思ったんだな。
学校を出てから5分後に雨がポツポツ降ってきちゃった。
傘を取りに学校に戻れば往復10分を無駄にする。
家まで走れば15分。
さて、どうしようかと思っていたら、ある家の前でおばさんに呼び止められた。
濡れたら風邪引いちゃうから、ほら、傘持って行きなさい。
おばさんがそう言って玄関に傘を取りに行ってくれた。
この家には 辯護士 岡村勲 って表札がかかっていて、母ちゃんはこの家の息子さんと同じクラスだった。
傘を持って来てくれたおばさんは、
ちょうど息子の友達が来てるから、あなたも一緒に肉まんを食べていきなさい。
あったまるよ。
そう言って、母ちゃんを家に上げてくれた。
弁護士夫人なのに、気取るどころか誰にでも親切で、息子と同じ中学の制服を着ている子が雨に濡れていると声をかけてくれる。
こういうお母さんっていいなぁ。
って、母ちゃんは思った。
中学を卒業すると、母ちゃんは女子高に行ったから、岡村弁護士の息子さんとは当然進路も違い、その家の前を通ることもなくなったんだ。
1997年10月1日に父ちゃんと母ちゃんは結婚したんだけど、その9日後、TVのニュースを見ていた母ちゃんがフリーズした。
母ちゃんに親切にしてくれたあのおばさんが殺されたんだ。
母ちゃんに傘を貸してくれたあの玄関先で。
→ 弁護士夫人殺人事件(ウィキペディア)
日本弁護士連合会は会を挙げて『死刑反対』運動を推進していて、事件当時東京第一弁護士会会長で日本弁護士連合会の副会長だった岡村勲弁護士もその論調を支持していたんだけど、事件から一転犯罪被害者家族となって、『死刑推進派』となったんだ。
それをご都合主義だとか、宗旨替えだとか揶揄する人もいるけど、その身を置かなければわからないことって、人の世にはたくさんある。
その身となって初めてわかったことを、ためらわず「今までの自分は間違っていた」と言える人をおいらは偉いと思う。
人は死んでしまえば人権がなくなる。
だから、殺された人の弁護は法律上は誰もできない。
遺族の苦しみを救済する法律も存在しない。
これが不公平でなかったら、公平・不公平とは一体何だというのだろう?
『死刑は国家による殺人』などという論法が闊歩する。
じゃあ、禁固刑は『国家による人権蹂躙』で、罰金刑は『国家による金品強奪』なのか?
死刑は刑罰で殺人は犯罪だ。
刑罰=犯罪というロジックをどうして誰もおかしいと思わないんだ?
なんて、風邪を引いて雨が降ってくると、母ちゃんは親切にしてくれた岡村のおばさんを思い出すんだってさ。
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