あすなろタロー　ただいま修行中: 昭和のおやじとルマンド

おいらはブログを通してたくさんの人間のお友達ができたんだ。
その中の1人、カップラーメン博士でスナック菓子研究家、ビールにも造詣が深いtaka :aさんっていう人がいるんだけど、そのtaka :aさんが北日本食品（現ブルボン）が誇る銘菓『ルマンド』について書いていたんだ。

母ちゃんが小学生の時に彗星の如くデビューしたルマンドは、一世を風靡したんだってよ。
まず、それまで日本のお菓子にはなかった紫のパッケージ、意味がわからないおフランス風カタカナの名前、立ち食いするには恐れ多いデリケートな食感。どこをとっても高級なお菓子に思えたんだって。
今はバンクーバーでも売っていて、おいらの家には来客用に常にあるお菓子なんだ。
ルマンドの出現で日本人はクレープとグレープの違いを知ったんだよな。
そしてその後、キウィときゅうりの違いを覚えたんだ。

で、驚くべきことは、1974年の発売以来、ルマンドのメーカー希望小売価格は40年以上150円のままなんだ。
発売当初の日本の袋菓子は100円が相場だった。
その相場を150円に押し上げたのがルマンドなんだ。
オイルショック後の値上げ合戦の中、ルマンドの150円は諸手を挙げて日本人に受け入れられたんだ。つまり、ルマンドは他の袋菓子より1.5倍偉い！って市場が認めたんだよな。

ルマンドは第一次オイルショック直後に発売されたせいか、おいらの母ちゃんの中ではオイルショックwithルマンドで記憶が構成されている。

1973年に起こった第一次オイルショックは母ちゃんの年代より上の人には忘れられない社会現象の1つなんじゃないかと思う。
当時、小学校低学年だった母ちゃんも今でも鮮明に覚えているし、『今日と同じ明日がやってくるとは限らない』と頭に叩き込まれた原体験になったんだよな。

当時、日本の一般家庭の子どもにとって100円は大金だった。
小学生の子どもが1000円札を持ってお菓子を買いに行ったら親に通報される古き良き昭和の時代。
クッピーラムネが5円。
カバヤのジューシーが30円
ヤマザキの菓子パンが25円～40円
ジャポニカ学習帳が50円

なんとものどかなお値段だろ。
それがオイルショック後、一夜にして

クッピーラムネが10円。
カバヤのジューシーが70円、しかも内容量が減る。
ヤマザキの菓子パンが70円～120円
ジャポニカ学習帳が120円

になったんだ。
100円玉の価値が下がり、子どもの生活を暗くするのに十分な社会現象だった。

オイルショックと言えば、紙や石油製品が高騰して、おばちゃんたちがトイレットペーパーと洗剤を求めてなだれ込むというイメージがあると思うけど、あれは本当の話。
全ての紙という紙が、紙を越えて神という存在になったんだ。

当時の様子

そんなある日、おいらの母ちゃんと母ちゃんのお父さんは親戚の家に遊びに行く手土産にケーキを買いに行ったんだ。
昭和17年生まれのお父さんは昭和の男。
ビートたけしのお父さん、菊次郎さんと人格的に全く同じ。
ヘソ曲げちゃうとテコでも動かなくなる厄介な江戸のおじさん。

ケーキを箱に入れてもらって、清算する時にケーキ屋のおじさんが言ったんだ。
「箱代で20円頂きます。」

母ちゃんのお父さんが言った。

俺はケーキは買うが箱を買う気はねえ。この店のケーキ全部買うから、持てるようにしてくれ。けれど、箱は買わねえよ。

後で、なんであんなことを言ったのか、母ちゃんはお父さんに聞いてみたんだ。
そうしたら、お父さんが教えてくれた。

オイルショックっていうのは、石油の値段が上がるんだ。
世の中の全ての物が、原料を調達して、機械を使って製造して、トラックや飛行機でみんなのところに届けられる。原料を調達するのも、機械を動かすのも、トラックや飛行機の燃料もみんな石油によるものだ。紙だけが石油のお世話になっているわけじゃない。なのに、紙だけ特別に扱われるのはおかしいだろ。こういうのを便乗値上げって言うんだ。たかが20円と思ったらダメだぞ。全国のケーキ屋さん、全国の紙を使うお店屋さんが同じことをしたらみんなの生活が大変なことになるだろーが。覚えとけ！

そうか、ケーキの箱代20円払うのと、ルマンドが他のお菓子より50円高いのは全く意味が違うんだね。

今も日本に棲息しているんだろうか。

偏屈だけど独特の哲学を持った昭和のおじさんは。