2016年3月6日日曜日

誠実


母ちゃんにお昼ご飯をもらった時のこと。

おいらのご飯は、プロセスがちょっと複雑。

おいら、ご飯を噛むことが身についてきたから
今は10回ではなく、3~4回に分けてもらうんだけど
最後のご飯をもらったら、あとは何のコマンドもすっとぼけ通すんだ。

それでも母ちゃんは、おいらにコマンドを覚えさせようとしてきた。
でもね、母ちゃんは、実はお見通しだったのよ。
おいら、コマンドを覚えられないんじゃなくて
わかってても、意志を持って言うことを聞かないってことを。

だってさ、おいらにとっては、ご飯をもらうためのコマンドじゃん。
ご飯がなくなったら、聞く必要ないじゃんか。

ところが、今日の母ちゃんの反応は、いつもとちょっと違ってた。


「お前は正直だけど、誠実ではないね。」


母ちゃんがぼそっと呟いた。

おいらは『正直』の意味も、『誠実』の意味もわからないけど
おいらの目を見てくれない、母ちゃんの悲しそうな顔に
とてつもない恐怖を感じたんだ。

越えちゃいけない一線を、きっとおいらは越えちゃったんだ。
本能的にそう悟ったんだけど
でもそれが何なのか、おいらにはわからない。

母ちゃんは、おいらを叱らなかったし
ご飯だって、おやつだって、運動だって、いつも通りにしてくれる。
でも、なんか違うんだ。

うまく言えないんだけど
母ちゃんを千手観音様に例えるとするだろ。
今までは1000本の手で、おいらを撫でてくれてたとするだろ。
それが今は、999本になっちゃった。
そんな感じなんだ。
これから、どんどん母ちゃんの手が少なくなっていったら
おいら、どうしたらいいんだよ。




ねえ、母ちゃん。
おいらを叱ってくれよ。
おいらの目を見て、いつもみたいに叱ってよ。
この魚、母ちゃんにあげるから。



母ちゃんの悲しそうな顔、おいら、すごく怖いよ。



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