あすなろタロー　ただいま修行中: おいらのトップレディース

バンクーバーの長い長い冬が終わって、春一番が吹くと、春風がたくさんのお友達をおいらの元に連れて来てくれる。

今春の最初のお客様は・・・
じゃーん！！！美重子おばちゃんだった！

おいらはとにかく美重子おばちゃんが好き。
普通の好きじゃなくて、もう頭おかしくなるほど大好きなんだ。

おばちゃんの匂いがすると、おいらはおばちゃんの周りを異常な勢いで駆け巡って

おばちゃん、おいらを見てー
おいら大きくなったでしょー
こんなに立派に走れるんだよー
すごいでしょー

アピールに余念がない。
後から写真を見ると変顔になってるなんてことは気にするな。

おばちゃんは母ちゃんの容体を心配してお見舞いに来てくれたんだってことはわかってるんだけど

母ちゃんなんてどーでもいーからー
おいらと遊ぼー
おばちゃんのいい匂い嗅がせてー

おいらはジャンプして、美重子おばちゃんのキスを奪ったんだ。
おいらは完全肉食系男子だから、食い物も愛も積極的にゲットする。
母ちゃんに叱られたって、知ったこっちゃねーよ。

日本に里帰りしていたおばちゃんは素敵なお土産を持って来てくれたんだ。

他にもたくさんくれたんだけど、餡子好きの父ちゃんに銀座あけぼのの最中の詰め合わせはすげー響いちゃった。
母ちゃんの療養中、父ちゃんは本当に大変だったんだ。
おいらは久しぶりに父ちゃんの嬉しそうな顔が見られたよ。
美重子おばちゃん、本当にありがとうな。

その2日後に春風が連れて来てくれたのがオリビアだった。
オリビアっていうのは昨年5月までの2年間、おいらの家から近所の高校に通っていた留学生だ。今はトロント郊外のWaterloo大学っていうところに通っていて生物化学を専攻してるんだけど、大学が今お休み中だから飛行機に乗って遊びに来てくれたんだ。
母ちゃんの大好物のビアードパパのシュークリームを忘れないところがさすがオリビアだ。けど、おいらへのグリニーズはどうしたんだよ？お前、まだまだだな。

おいらはオリビアを妹だと思っているんだけど、あいつはどうもおいらのことを犬だと思っているようで、一から根性を叩き直してやろうと思ったんだけど、オリビアに再会したおいらは嬉しくて尻尾をブンブン振っちゃったんだよな。
これじゃ、おいらまるで犬みたいじゃないか。
久しぶりに会ったオリビアは随分痩せていて、父ちゃんと母ちゃんは心配してた。
ちゃんと食って頑張れよ！

その次の日に来てくれたのが玲子さんだ！
玲子さんは母ちゃんの大学の先輩で、って言っても玲子さんは母ちゃんより1周り先輩だから一緒に学校に通っていたわけじゃないんだけど、女生徒が極端に少ない大学だったから同性の同窓生っていうだけで絆が強いんだ。
玲子さんは敬虔なクリスチャンで、毎夏教会の御用で神戸からバンクーバーにやってくる。
おいらの母ちゃんはアンチ宗教の人だから教会とは縁がないんだけど、なんか母ちゃんと玲子さんは気が合うんだよな。
うちでおしゃべりしてると6時間なんてあっという間に過ぎていくんだ。

おいらの家では、おいらは客間に入っちゃいけないことになってるんだけど、どうしても玲子さんに挨拶したくて客間の入り口でしゅるしゅるのすってた。
できるだけ可愛くのするのがコツだ。

「あら、タローちゃん、こっちに来たいの？」
すぐに気付いてくれる優しい玲子さん。
母ちゃんなんか見て見ぬフリだもんな。
玲子さんにおいでってお呼ばれしたおいらは、嬉しくて嬉しくて8の字に玲子さんの周りをクネクネしながら、パタンパタン尻尾で玲子さんをひっぱたく。
玲子さん、ちょっと困ってるけど、きっとおいらのこと許してくれる。
そういうのを見抜くことにかけて、おいらは天才。

「何やってんだ、タロー！
挨拶は1回でいいんだ。
しつこい男は嫌われるぞ！」

父ちゃんに叱られちまった。
玲子さんに嫌われるのは辛いから、おいらは泣く泣く所定の位置に戻る。

美重子おばちゃん、オリビア、玲子さん
春はおいらが大好きなレディースを運んで来てくれる。
みんな、また来てね！