2017年2月12日日曜日

昔のことなんだけど・・・


おいらは毎日母ちゃんとお話する。
ってか、おいらが一方的に聞かされるんだけどね。
年寄りの話は聞いてやらなきゃいけないだろ?

今日はね、母ちゃんが昔新聞で読んだ記事の話を聞いたんだ。
もう何十年も前のことらしいんだけど
その話をすると、今でも母ちゃんの目から変な汁が出てくるんだ。


大昔のことらしいし、母ちゃんの記憶もあんまりアテにならないんだけど
確か福島県の、当時小学生の女の子が
通学途中で捨てられている子犬を見つけたんだ。
その子犬は両目が瞬間接着剤で閉じられていたんだって。
瞬間接着剤って皮膚に付くと痛くて熱いって知ってるか?

母ちゃんは子供の頃、瞬間接着剤で遊んでて指に付けちゃったんだ。
セメダインみたいなもんだと思った母ちゃんは
別の指とこすり合わせて取ろうとしたら、火が付いたように熱くなって
慌てて水で洗い流したんだけど、もう後の祭りってヤツでさ
何十年も経つのに、未だにその指には指紋がないんだって。
怖いよなー。
そんなもので犬の目を閉じるって、どんだけ鬼畜だよ?

で、その子はその子犬を獣医さんに連れて行ったんだ。
そしたら獣医さんが言ったんだ。

この犬はもう一生目が見えない。
目が見えない犬は生きていけないから
ここで死なせてあげよう。

その話を受けて、その女の子が言ったんだ。



犬は目が見えない人間を助けてくれるのに
人間は目が見えない犬を殺すのか!


おいらの母ちゃんはそんなにセンチメンタルなタイプじゃないんだ。
女性には珍しいほどのリアリスト。
けど、この子の言葉は魂の叫びとして母ちゃんの心に響いたんだ。
そして何十年の時を超えて、未だに心に残ってる。
瞬間接着剤で溶けちゃった指紋の痕を見る度に思い出すんだってさ。

なあ母ちゃん
人間は何歳になると、そういう気持ちを忘れちゃうんだ?


母ちゃんのために、おいらもその記事をググってみたんだけど
大昔過ぎて見つからないんだ。
誰か、この話を知ってる人はいないかな?
その子犬はそれからどうなったのか
当時小学生だったその子はちゃんと震災を免れたのか
母ちゃんが心配してるんだよ。














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